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バンブーオルガン裏話 [ESSAY&STORIES]

一時期、海外を旅して写真や文を雑誌などに持ち込みしていた。
学生の時から「竹」をテーマにしていて、竹を切り口にして自然と人の関わりや、違った切り口の世界の見方を探っていた。

フィリピンのバンブーオルガンは、竹に詳しい人の間では割と知られているし、オルガン演奏者でも聞いたことがあるという人がいた。日本でも知る人ぞ知るというところだろう。

フィリピンで、人と話す度に、バンブーオルガンを知っているかと訊ねてみた。
マニラの若者であれ離れ島の住人であれ、知らない、と答えた人は一人もいなかった。当たり前だ、何言ってんだ?とけげんな顔する人もいた。
日本の文化遺産に例えれば、何といえばいいか。
奈良の大仏、あるいは東京タワー、という感じだろうか。フィリピンでバンブーオルガンはそれほど有名、かつ生きた文化財として親しまれている。

戦争中にバンブーオルガンを日本人が直した、という話は日本でも本の中でちらりと読んだことがあった。フィリピンでもわりと知られている話らしい。
教会で売られている冊子では、J.TOKUGAWAとある。

帰国後、この人が誰か調べた。国会図書館であらゆる方面で調べたが、分からない。
当時尾張徳川家の義親という人がいて、今も財団法人徳川黎明会というのがある。
意を決してそこに電話して聞いてみた。訳もなくしゃっちょこばってしまう。
訳を話すと電話の相手は興味を持ってくれて、現当主に聞いてみてくれた。

義親氏かどうかはわからないが、当時紀州徳川家に頼貞という人がいて、フィリピンに行っていたらしい、和歌山市図書館に聞けばわかるかもしれないと教えてくれた。
和歌山市図書館の人が、「頼貞随想」という本からバンブーオルガン修理に関する文を見つけてくれて、やっと修理の主がわかったというわけだ。

二流、三流の文化人であれば、我が国、自分がやったとばかりに菊の紋章や家紋を掲げたりするかもしれない。
頼貞氏にはそんな気配は微塵もなく、このような文化財は自国(フィリピン)の人が守ってこそ意味がある、という。
頼貞氏の他のエピソードもいずれ紹介しようと思うが、こんな戦乱の時代にも真の文化人といえる人はいたのだ。翻って今、政治家の中に真の文化人と呼べる人はまるで見当たらない。

後になって、頼貞氏は晩年、芸大に近い谷中に住んでいたと聞いた。奏楽堂のオルガンといい、微かに袖を触れ合う程の縁を感じた。

この頃までに何社か雑誌編集部と話をしていて、この内容でいけるかな、と持ち込んだのが芸術新潮だった。
いきなり高嶺の花かな、とも思えたが、大衆誌は大衆的な内容でなければ載せらないわけで、それはそれで難しい。
ここ、と思ったところに臆せず行ってしまうほうがいいと思った。

副編集長は、内容を好意的に捉えてくれて、ざっと書いてみることになった。
担当者は、こんな感じで書いてもらえるとありがたいです、と言ってくれたが、でもここはもうちょっとこう・・・と直される。だが他人の手が入るとどうもリズムが違ってしまうので、その部分を新たに書き直す。この繰り返しが4、5回。

スペインや日本がフィリピンと関わったのはもちろんいいことばかりではない。そのあたりをどう書くかが一番悩んだところだった。
『スペインの影響には複雑な思いもあるが・・・』
というようなことを書いたら、
「複雑な思いをしているのは日本人のあなたでしょう。フィリピン人の気持ちは本当にはわからないはずだ」と突っ込まれた。
それはそうだ。日記や身内など少人数に向けて書くことと、このようなメジャーな場、読者がお金出して買う雑誌で書くことは違う。プロの世界、ひとりよがりな書き方は許されない。

最後に思い至ったのは、歴史というものはいくら書いても書き尽くせるものではない。ましてこの短い文の中では。それにこれを読むのは芸術新潮読者。中、高校生じゃない。スペインや日本のフィリピンとの歴史は知っているだろう、ということ。
多少の誤解は仕方ない、と後半、歴史に関わる部分をばっさり切り捨て、短い文で後半をまとめた。
「いいと思います」と担当者。掲載となった。
載ったのは20世紀最後の号で、芸術新潮創刊50周年特集。タイトルは「最後の遺書」。編集部の意図があったのかどうかは知らない。

しばらくして、文藝春秋から年間ベストエッセイ集に掲載したい、との手紙がきた。
若手、アマチュアのエッセイ集かと思いきや、他の人は川上弘美、藤原伊織、野坂昭如、落合恵子、阿川弘之・・・
おいおい、名のある作家やエッセイストがぞろぞろ。いずれも肩の凝らない文で味のある話を書いている。
いきなり舞台に引っ張り出された格好だったが、それで気付くところも大、だった。
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